第26回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

米子市公会堂

所在地

鳥取県米子市角盤町2-61

竣工

1958年(昭和33年)

改修年

2014年(平成26年)

建物用途

公会堂

建物所有者

米子市

改修設計者

鞄建設計、日建設計コンストラクション・マネジメント梶A褐K本総合設計

改修施工者

轄ヲr組、美保テクノス梶A兜ス田組
 米子市公会堂は、村野藤吾の設計により1958年に竣工した。1980年には増築を含む大規模改修の後、公共建築100選にも選ばれ、長きにわたり市民に親しまれてきた。2009年の耐震診断の結果と老朽化の進行から、一時は使用が停止され、米子市における建築の存続か廃止の議論の結果、2014年の耐震補強と大規模改修に至った。市民の声に押されて存続が決定した事例である。
 米子市と市民団体の要望により、改修によって建物外観とホール内観の形態・意匠が変わらないように計画、施工され、村野藤吾の設計思想を尊重することを第一にプロジェクトが進められている。
 改修計画のハイライトは、ホール後部がオーバーハングした特徴的な建築形態を変えることなく、耐震補強を実現したことである。ホール屋根を一旦全体的に撤去し、大梁を含む鉄骨構造材を全て取り替えて屋根を再施工することで、屋根面の剛性を確保するとともに軽量化し、また、客席背面の壁に連続する客席段床を耐震要素とみなし一部増し打ちすることと、段床に続くホール・ホワイエ間の耐震壁化及びその基礎フーチングの大規模増設により、客席背面から地盤への地震力伝達ルートを新設している。加えてエキスパンションジョイントで区切られていた舞台背面の楽屋棟の耐震バランスをとり直し、ホール本体と接続し舞台部の面外方向強度を高めることにより、既存の外観と内観に対して補強部分を意識させることなく、難解な耐震補強を解決している。
 屋根部分の解体新設に伴い、ホール天井も解体前天井の3次元スキャナー計測により忠実に複雑な曲面形状を再現し、加えて音響改善も図っている。劇場扉の押し引手や曲線の壁見切り、木製手すりなどの再利用や、劣化などによる張替え部分の外装タイルの再生等々、機能更新とともに全体的に村野藤吾の設計意図を生かした甦生と言える見事な改修が行われている。
 さらに、耐震補強とともに断熱性能の向上で空調負荷を低減している。そのため、冷却能力の必要性を20%削減することができ、空調設備における省エネルギー性の向上を図っている。また、熱源をガス専焼から電気・ガスのミックス化に変更してエネルギーの効率化も行なっている。ホワイエにおいては、照明設備を再利用することで既存意匠の再現を実現している。ホールの照明設備は、3Dスキャナーによるホール照明の再現とLED採用による省エネ性・演出性を実現、また、ホール天井裏に、メンテナンススペースを確保し、保守・メンテナンスへの長期対応も実施している。
 いわゆる昭和の名建築の建て替えが各地で検討される中、市民の声に後押しされた優れた保全改修の事例として、今後長期にわたり維持保全され使い続けられることが期待される。

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