第26回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

東京大学大講堂(安田講堂)

所在地

東京都文京区本郷七丁目3−1 (東京大学構内)

竣工

1925年(大正14年)

改修年

2014年(平成26年)

建物用途

学校(大学講堂)

建物所有者

国立大学法人 東京大学

改修設計者

東京大学キャンパス計画室(千葉学)・同施設部、香山壽夫建築研究所

改修施工者

清水建設梶A滑ヨ電工、日本装芸
 内田祥三、岸田日出刀らの設計により大正14(1925)年に竣工した東京大学大講堂は、昭和から平成の歴史の激動の中、東京大学のシンボルとして常にその存在感を示してきた。
 しかしながら、平成23(2011)年の東日本大震災を契機に、その構造躯体および大講堂の天井をはじめとする非構造部材の耐震性不足問題がクローズアップされることとなった。また、今日的な建築機能上の問題として、エレベーターや便所などのバリアフリー化対応、遮音性や音響性能の改善、居住性能の改善、設備の更新などが急務な状況であった。
 一方、竣工後80年を超える歴史の中で施されてきた数々の改修工事により、その内装意匠や平面形など、創建当初の美しい意匠はかなり失われてしまっていたという。
 このような状況の中で、「基本的に創建時意匠へ復元する」という強いデザインコンセプトのもと、諸課題をバランスよく見事に解決したプロジェクトとして大いに評価したい。
 特筆すべきは大講堂および玄関・ロビー空間の復元リフォームである。構造上の耐震化をはかりつつも、大講堂の天井全体の耐震化にあたっては意匠性、安全性、メンテナンス性などを総合的に検討した上で、実物大モックアップによる諸性能確認のための実験を繰り返すなど、徹底的な実証に基づいた上での施工となっている。
 リフォーム後の大講堂内観は圧巻である。復元された床フローリング、意匠復元をしながらも新たに吸音性能を持たせた壁面、耐震補強された天井意匠、そして張り地等を更新した椅子が、復元されたハイサイドライトからの柔らかな自然の光によって照らし出された姿は、90年を超える歴史の奥深さへと見るものを引き込み、思わず息を飲む。玄関、ロビー空間などの復元リフォームも同様にきめ細かな配慮がなされ、見事な仕上がりである。
 近代建築を復元しようとするデザイン方針と構造上、機能上の課題解決とは、往々にしてバッティングするものである。本プロジェクトでは、設計者が建築家としての強い意志をもって「復元して守るべきところ」と「変えることを許容するところ」を明確に打ち出し、「変える」部分も変えたところを後々読み解けるかたちでデザインするという高度な設計姿勢を貫いている。
 所有者の本建築に対する強い愛情と誇り、オーセンティシティーに対する設計者の強い意志、高度な技術的課題に対する東京大学の構造・意匠・設備・音響・建築史等各研究室の強力なサポート、そして課題克服の実現性に対する施工者の地道な裏付け検討、これらの強い連携が本プロジェクト成功の最大のポイントであったと思われる。
 設備の更新にあたっては、省エネルギーへの配慮に加え、今後の更新を容易にするために設備系統の整理も図られており、本プロジェクトに関わる歴史的事跡や改修履歴などと共に、維持保全の手引きとして報告書がまとめられている。
 本リフォームを通じて、今後起こりうる未来の改修へ向けてしっかりとした基礎が構築されたことは、他の同様のプロジェクトの模範になると評価したい。

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