応募資料の冒頭にあるように、「屋内温水プール」から「おしゃべりのできる図書館」にコンバージョンされたプロジェクトである。そもそも平成6年に雇用促進事業団の「中山勤労者体育施設屋内温水プール」として竣工したものを、平成15年に中山町に移管されたものの、平成18年に赤字により廃止され、老朽化していた木造部分を解体した状態になっていた。これを、平成22〜23年の中山町第5次総合計画で図書館の整備が盛り込まれ、室内温水プールの図書館への活用が検討される事になり、町民によるワークショップ等を経て、設計・着工にこぎつけている。このワークショップで、この図書館をどう作るかという事に対して、「本に出会うだけではない気軽な町民の居場所」という方向性が示された。
既に25m温水プールは解体されていたわけで、ここに残っていたのは、1階の上部にトップライトのあるウォータースライダーのある流水プールと子供プールがある大きな空間と、エントランスホールをはさんで両サイドに展開する事務部門とロッカー室、そして2階の一部に、喫茶コーナー・ギャラリーと機械室という構成だった。まず、このプール空間が、図書空間に変身する。この空間は、コンクリート構造体現わしのワンルーム空間で、両側半分にふんだんに太陽光が降り注ぐ吹抜や湾曲した壁とスロープのある変化に富んだ空間である。この空間構成を最大限活かし、図書館としての必要な機能を配している。流水プールの曲面やスロープは、そのまま利用して児童図書コーナーに、ウォータースライダーの出発点だった空間は、「空中図書」として子どもの好奇心をくすぐる人気のスペースとなっている。又、上部の大型トップライトのガラスに熱線反射仕様の飛散防止フィルムを貼ったり、煙突効果により熱気を追い出す開閉窓の取り付け、直接の日射を和らげる断熱パネル(ポリカーボネート複層中空パネル)などの省エネ改修を施している。外壁に面する部分には、発泡ウレタン吹付けの上にグラスボードt30を貼り、これは吸音対策にもなっている。
エントランスホールは、ギャラリーとして利用され、ほんわ館ファンクラブというボランティアによる活け花がやさしく皆を迎え入れてくれる。両サイドの事務部門は多目的室や授乳室ともなる和室に変身、ロッカー室は閉架書庫と資料庫にそのまま転用している。
2階は、木とガラスのスクリーンによって研修室・学習室として利用され、1階図書室を含むこれらの家具は、張替不要の地元家具メーカーの木製品を使用している。
図書室の空調吹出口は、既存排水ピット内にダクトを通す下吹出方式とし、書架足元、ベンチ足元など家具と一体化した頭寒足熱効果の快適空間を作り出している。照明器具は全館LEDであり、吹抜部のペンダントは地元業者の木工事で製作されている。維持管理に於いても、地元業者の採用によりきめ細かな対応が期待でき、今後も末長く地元中山町に限らず周辺市町村からも愛される施設となっていくであろう。
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