東武浅草駅の外観が、創建当時このような姿だったというのは驚きだった。私達は、この40年間アルミルーバーに覆われた外観を見ていたわけだ。耐震改修工事を契機とした、外装改修、内装・設備改修の全面リニューアルであるが、スカイツリーと共に、今回のリニューアルで、この建築が浅草の街に果たしていた役割を、現代の技術により再び甦らせた。
このビルの創建は昭和初期の1931年、関東初の百貨店併設の駅ビルで、駅ビルとして当時日本最大級の規模を誇った。浅草の街に完成したネオ・ルネサンス様式の建築は、当時の街に新たな驚きと息吹、賑わいを与えていた。それが、約40年前に、外壁のテラコッタタイルの劣化による剥落防止を兼ねたアルミルーバーにより全面を覆われる改修工事により往年の姿は街から失われていた。
リニューアルの内容としては、アルミルーバーを全面撤去の上、GRCカバー工法による外装の全面更新、鉄骨ブレース・RC造ブレース、炭素繊維巻き柱補強等を駆使した全館耐震補強、時計塔の復活、そして上層階4層と屋上テラスを合わせた商業空間の再生である。休むことが許されない駅舎ホーム階、また低層部の百貨店の営業を妨げない「居ながら改修」と、東京スカイツリータウンRの開業に間に合わせるという短工期が求められた。
駅舎階の耐震アーチブレースは、鉄道車輪をモチーフとしており、既存躯体に増し打ちをした上で、工場でユニットに組まれたものを外部より取り付けた。またGRCのカバー工法は、約140mの長大建築で昭和初期の鉄骨鉄筋コンクリート造の建築強度からスパン毎に開口幅やレベルが微妙に異なる現状に対し、誤差を吸収するディテールとして先行して取り付けるGRC梁型カバーにあらかじめ45oの「重ね代」を設定することにより、ユニット化、量産化を可能にして施工性の向上を図っている。GRCカバーの検討にあたっては、3Dモデリングによる徹底したプロポーションの検討を行なっており、オリジナルよりも彫は深くなるが、柱型の側面では一部FRPを併用することにより、そのプロポーションを守ると共に構造荷重の負担軽減にも貢献している。
屋上の時計塔もサインで覆われていたが、竣工当時の図面と写真を元に復活。かつては、日本初の屋上遊園地を有した屋上には、東京スカイツリーRを一望できる展望と休憩のできる「浅草ハレテラス」を整備している。
環境対策としての、ライトアップを含む照明器具のオールLED化、又既存外壁との空気層を挟むダブルスキン化、カバーによる庇効果としての日射低減効果により外壁の断熱性能向上が図られている。
ホーム階の柱補強、ホーム下の柱袖壁補強等の工事は、その実質作業時間1時間50分〜3時間との事で困難を極めたが、これを見事克服し、これからの浅草の更なる発展に継がる「復活した浅草のランドマーク」を完成させた。
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