プロジェクトの基本方針を、すべての使用者に対する安全安心なターミナルの実現、環境性能の向上、阿蘇熊本の空の玄関づくりの3点を柱とし、365日稼働させながら実施する国内線ターミナルの増改築・改修を実現した。
内装改修等とそれに伴う増築の範囲は、航空テロの影響から手荷物検査の方法が変化し、チケットロビーにX線検査機械設置などによるスペース不足を補うため、奥行6m、面積として全体の約4%、750uの室内ロビー空間と車寄せポーチとなる大庇部分等である。既存外壁を取込み増築されたチケットロビーやそれに連なる空間は、車寄せの大庇と既存建物の間に架けたエコルーフから柔らかく取り込まれる自然光や自然換気システムにより、明るく心地よい空間へと生まれ変わった。
エコルーフと車寄せ大庇が一体となった増築部分は、既存建物に水平力負担が期待できず車寄せの庇と増築屋根部分が“やじろべえ”式にバランスする構造として鉛直方向の軸力のみ滑り支承を用いて既存と接続している。既存建物の耐震補強では、機能継続のために航空法に指定されるセキュリティエリアを外した部分での設置計画が求められ、撤去予定建物も買取りを行い活用することによって耐震補強の場所を確保するなど、空港ならではの制約条件に対し様々な発想の転換により克服している。
設備計画では、アクセス道路側の新設したカーテンウォールの足元に設置した電動自然換気パネルと大屋根頂部に設置した排気窓により、空港施設ではあまり例の無い空調連動のハイブリッド自然換気(5回/h)を試行錯誤の上実現している。また、日本の伝統的手法である庇や反射光の利用、自動調光、太陽光発電、基幹設備の高効率化等により環境性能の向上を図った結果、増築前と約10%の電力消費量削減の効果が1年目で確認されている。
施工にあたっては、航空法の制限区域や安全管理規定、セキュリティーを考慮した監理区域内作業が求められる空港施設内での厳しい条件設定に対応した工事となった。たえず人や車の往来を避け殊に安全な工事方法が求められた。必然的に夜間工事による対応が中心となり、昼夜施工サイクルの確立にも苦心している。
旅客に熊本を印象強くイメージさせるため、県産材の木材を多用したデザインとなっている。木材の質感や表情を長期的に保つため、屋内での活用はもとより外装部分には劣化の影響が少なくまた表現上最も効果的な軒天井へ使用している。取付けた木材のボリュームによる存在感も圧倒的であり、夕刻にはライトアップされた大庇の天井は木材の色彩が映し出され印象的である。ひと皮の大庇の増築を通して外観イメージや主要な既存ロビー空間機能の飛躍的向上、建物の省エネ・環境性能向上と更なるバリアフリー化が実現できた。航空需要の増加に伴い、空の玄関として期待される地域活性化のイメージづくりを担う空港ターミナルビルの改修に最小限の増築を加えることで、ベストリフォームとしての顕著な成果が創り出された。
|