23回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

東京都美術館

所在地

東京都台東区上野公園8-36

竣工

1975(昭和50年)

改修年

2012(平成24年)

建物用途

美術館

建物所有者

東京都

改修設計者

椛O川建築設計事務所

改修施工者

大成建設梶A名工建設梶A山口建設

東京都美術館が立地する上野の森は、東京国立博物館や国立西洋美術館など日本を代表する様々な文化施設があり、日本の芸術文化にとって特別な場所である。東京都美術館が東京の魅力を世界に発信する新たな拠点としてリニューアルすることが必要であった。

現在の東京都美術館は前川國男氏の設計により1975年に竣工し、日本を代表する美術館として優れた作品の鑑賞空間であったが、開館以来35年が経過し建築素材の劣化や設備機器の老朽化など、多くの問題を抱えていた。また、今日の社会情勢の変化や来館者・利用者の要望を受けて、設備の更新、ユニバーサルデザインの整備、アメニティや展示空間環境の向上のため改修を行った。

展示機能の向上として企画展示室の天井高さを3.2mから4.5mとなるよう建て替え、またアメニティの向上のためレストランの増築を行っている。既存レストラン部は平屋建てであったが、2階を新たに増築し、レストランを設置することで、1階を誰でも立ち寄れるアートラウンジとカフェとしたため混雑も解消し、レストランは南北に視界が開けた快適性が実現した。

上野公園の園路の再編成により、東京都美術館の正門に向かっての明確なアプローチが構成されたことにより東京都美術館の存在がより明確に認識されるようになり、また北側の新たな出入口が新設されたことにより通り抜けが可能となったため、上野公園との一体感が大幅に向上した。

法改正に伴う既存不適格部分については、全館避難安全検証の認定を受けて既存建物のイメージを損なわない改修が行われたことも評価できる。また、施工においても既存のタイルと同じ色調になるよう単釜で焼き上げるなど配慮が行われた。

美術館の設備の特性として、最も配慮しなければならないのが、美術品の魅力を引き出す照明設備と美術品の品質を維持するための空調設備とである。照明については、来館者の目への負担を配慮したレイアウトとなっており、光源についてもHF型蛍光灯とハロゲンスポットライト、LEDスポットライトをメリハリの利いた採用により、見事に展示物をライティングすると同時に省エネ化も実現している。空調設備については、来館者数の大きな変化対応と、美術品に配慮した展示壁面気流速度0.10.25m/sの両立に設計者の苦労が垣間見られる。また氷蓄熱の導入による夜間電力の有効利用や高効率ヒートポンプモジュールチラーの採用により、省エネ性能だけでなく、冗長性を確保した機器構成となっており、運用においても自動制御による省エネ対策が随所に見られ、太陽光発電設備の設置等、地球温暖化防止に大きく貢献する美術館となっている。維持管理においても、過去のデータ整理から導かれる省エネを強く意識した運用、美術館に相応しい各種メンテナンスが行われている。

美術館としての機能向上だけでなく、上野公園との一体性を意識した改修は高く評価できる。

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