東京大学伊藤国際学術研究センターは、株式会社セブン&アイ・ホールディングス名誉会長伊藤雅俊・伸子ご夫妻からの社会に対する謝恩の気持ちを込めた寄付により、東京大学が教育研究活動を通じて広く国際社会と連携する拠点として設立された。赤門書庫は、本郷キャンパスで最も古い建物の一つであり、大正5年に建てられた煉瓦造り建築の倉庫であり、新設建物の一つであるメインビルよってL字型に囲まれて立っている。今回のリニューアルで、その特色あるレンガの素材感を生かしつつ、構造的に補強し、屋根からも天窓光を導入することで、会議、会合、団欒の場所として生まれ変わった。
まず、既存の鉄骨梁・RCスラブ・鉄骨屋根トラスを撤去し、既存の煉瓦壁の内側の四隅にL字型のRC柱を配置し、外周をRC大梁で繋いだ最小限の架構を構築、スラブ位置も適切な天井高をキープするため、又、段差無しで新築部分と連絡できるようにするため変更した。電気設備、空調設備、給排水、衛生設備は四隅のL型のRC柱に沿って集約的に配置され、風格ある煉瓦壁を可能な限り広く内部に現す計画となっている。屋根は、元の切妻型を踏襲しつつ、新たに屋根窓を設け、ここから導かれる自然光が3階の特別会議室に新たな生命を与えている。また、赤門書庫とこれをL字型に囲む新築部との間には、構造上のエキスパンション・ジョイントを設け、その上部のトップライトからの光が赤門書庫の外壁を美しく照らし、新築部分からアプローチした来館者に対して、建物内部に突然、歴史的建築物が現れるという驚きのある空間体験を生み出している。
また、施工においては、構造体であった外壁煉瓦壁を残しつつ、これが倒壊しないように細心の注意を払いながら、解体工事→新設躯体工事→解体工事というサイクルを繰り返し、内部に新しい躯体(杭、基礎、柱、梁、床)を下階から施工していき、新設杭は室内の狭い空間でも施工できる先端羽根付き鋼管杭を採用している。煉瓦に定着筋(あと施工アンカー)を打ち込む作業では、煉瓦の目地割と定着筋との位置関係、納まりについて繰り返し現地確認を行い、品質管理に努めている。
省エネルギー的配慮としては、地熱を利用したアースピット及び輻射冷暖房パネルの設置、更にLow-Eガラスの全面採用が掲げられ、特に地熱利用のアースピットは取り入れ外気が2012年の夏の実験では5℃以上下がった効果が確認されている。
赤門書庫を含めたこの伊藤国際学術研究センターは、他にも、煉瓦塀(明治)、内田ゴシック建築(昭和初期)をはじめとする各時代の建築物に囲まれており、新築部分の周囲の建物に敬意を払った地上部のボリュームの構成や素材の選択、細部の設計により、新しい建築と歴史的建築物が呼応し合って、新たな風格ある空間が生まれた好例と言えよう。
|