第31回BELCA賞ロングライフ部門選考評

 BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康

 今回のBELCA賞の選考は、例年どおり申請書類に基づく第1次選考委員会、選考委員4名以上が参加する現地審査、現地審査に参加した選考委員の説明を加えての第2次選考委員会の順で行われたが、第2次選考委員会の最初に、現地審査で応募者から、「ロングライフ部門」から「ベストリフォーム部門」への変更申し出があった点が議論され、変更を認めるのが妥当と判断され、選考作業が進められ、前々回・前回と同数の「ロングライフ部門」3件、「ベストリフォーム部門」7件の物件の受賞が決定された。

「ロングライフ部門」の3件は、@1977年に竣工した、全住戸数994戸の5階の低層棟、11階・14階の高層棟からなる集合住宅および店舗・郵便局・市役所分室等が入る2階の店舗棟から構成され、かつ緑豊かなランドスケープを有する『我孫子ビレジ』、A関東大震災からの大学キャンパスの復興過程で内田祥三が設計した建築群の中で、ジョン・ロックフェラー・ジュニアの寄付を受け1928年に竣工した『東京大学(本郷)総合図書館』、これら@、Aが竣工当初から用途変更などがなされていないのに対し、Bは、木子清敬の設計により1881年に竣工し、明治天皇・昭憲皇太后が諸外国賓客のもてなしに利用した赤坂仮皇居御会食所が、1907年に伊藤博文邸に下賜移築され、1918年明治神宮外苑の造営に際して伊藤家の寄贈で現在地へ再移築し、憲法記念館として皇室行事等に使用され、戦後1947年より明治神宮の総合結婚式場・各種式典会場である明治記念館となり、周りに増築改築を繰り返した、創建から140年もの間、移築、用途変更を繰り返し今日の形となっている『明治記念館本館』である。

 各物件の詳細な選考評は、この後に続く物件ごとの選考評をご覧いただくとして、「ロングライフ部門」全体の概要について、高く評価された点を中心に以下に示す。

 

@『我孫子ビレジ』では、ディベロッパーの若手設計者の「最先端の技術で良い住環境を作りたい」という意気込みから、竣工時に先進的であった住棟セントラル式給湯設備、電線の地中化、地上設置の受水槽での圧送給水システム(非常用発電機装備)を採用し、さらに敷地面積の39%を占める緑地を確保、高層棟はSRCの現場打ち柱とPC部材を組み合わせた珍しい構造・中層棟は壁式PC構造であるが、現時点でも耐震改修の必要がない余裕ある設計、住戸の専有面積78u以上が確保され、ワイドフロンテージにより広がりのある内部空間であることと、管理組合が、竣工後43年間、3回の大規模修繕工事を行い、屋上防水・給水給湯設備・サッシ窓(LowE 複層ガラス)の省エネルギー改修・玄関扉改修・居住棟内給水管・埋設給湯管改修・外構の維持保全を継続的に実施するなど、時代の変化に合わせた最新の技術を用いて生活環境向上と光熱費削減が実行されてきていることなどが高い評価を受けた。

 

A『東京大学(本郷)総合図書館』は、2021年の本館改修と別館新築の二本柱からなる新図書館計画の一連の工事完了を以ての応募である。所蔵する書籍の増大に対応するため、北側噴水広場に地下46mにも至る300万冊収蔵可能の別館収蔵庫を増築し、正門から安田講堂に至るキャンパスの中心軸に直交する銀杏街路の南の突き当りにあたる図書館前の噴水広場の景観と図書館の建築そのものの保存を図りつつ、今回の受賞対象の図書館のオリジナル部分の保全改修・さらにはバリアフリー化などの機能改善を行っている点が、一連の行為として高く評価された。

 

B『明治記念館本館』は、先述のように2度の移築、さらには度重なる用途変更に伴う増改築が行われたにもかかわらず、その都度この建物の由緒が守られ、近年の改修では、学識経験者からなる修復委員会の指導の下で実施され、この建物の歴史と価値が建築主と設計施工者の強い意志のもとに守られており、また、保存と活用の両立と改修の「可逆性」を重要視し、改修に当たり取り外した当初材を明治神宮に保管しているなど文化財保護の好事例といえることが評価された。


第31回BELCA賞に戻る

BELCA賞トップに戻る