BELCA賞表彰件数10件の中で、ベストリフォーム部門で表彰されたものは、三年連続で7件という審査結果となった。ベストリフォーム部門における表彰建築が多くなるというのは、建築ストックを有効に活用していこうとする時代の流れなのであろう。
7つの建築の当初の建設年をみると、1890年代から1930年代にかけてものが1件、1930年代のものが1件と、戦前に建設されたもののリノベーションが2件あるが、その他の5件は1970年代以降のもので、1970年代が2件、1980年代が2件、そして1990年代のものが1件であった。また、建築用途からみると、用途の変更がないものは3件であり、4件はコンバージョン事例であった。建物の規模も様々であり、バラエティに富んだ表彰作品となり、ストック活用のされ方が多様になっていることの表れであると言えよう。
当初の建設年が最も古い「富士屋ホテル」は、明治から昭和にかけて建設された由緒あるクラシックホテルである。リノベーションの対象となった最も古い棟は、明治24年の建設であり、BELCA賞の対象としても際立って古い。必須であった耐震改修は、意匠の保存を最優先させた、改修されたことを意識させないものとなっている。避難安全検証法を用いた防災改修も、様々な工夫がなされている。客室などは、現代のホテルとしての要求に合わせて、保存というよりはリニューアルが行われ、水回り設備などの更新が行われている。ロングライフといってよい宿泊施設を、法適用除外指定を受けて保存活用の道を開いた、優れたリフォームの事例である。
「ザ・ホテル青龍京都清水」は、1933年に建設された京都市立清水小学校を、ホテルにコンバージョンした事例である。スパニッシュスタイルを感じさせる、昭和初期に丁寧に設計され、地域に愛されていた学校建築である。京都市が求めた事業提案に応えて、ホテルに改修されているが、既存の空間構成・意匠・ディテールを、個性豊かな宿泊施設として活用している。コの字型の中庭をホテルの外部空間として活かし、既存の陸屋根を素晴らしい眺望のルーフトップバーにするなど、優れたリフォームとなっている。既存建築のレベルの高さが活かされているわけであるが、京都のホテルとしての活用が適切であったのだろう。
1974年に建設された「新宿住友ビル」は、我が国としては最初期の超高層オフィスビルである。当初の設計では、新宿駅からの地下通路を経て、直にエントランスロビー・エレベーターホールへアプローチするものとなっていたが、人々が集い賑わう空間としての魅力に欠けていた。そこを改善すべく、オフィスビルとしての利用を継続したまま、ガラス屋根で覆われた無柱空間の足元広場を生み出した改修は、法規制・工事条件など、様々な障壁を乗り越えた、見事なものである。また、新しい考え方の制振ダンパーを設置するなど、50年近い初期の超高層ビルのリフォームとして、高く評価できるものである。
「横浜スタジアム コミュニティ・ボールパーク」は、1974年に建設された野球場で、永らくプロ野球球団のホームグラウンドとして活用されてきた。近年、本拠地として使用している横浜DeNAベイスターズの観客動員数が飛躍的に増えており、観客席を増やすことが望まれていたが、東京オリンピック2020において、野球とソフトボール競技の主会場となることになり、観客席を大幅に増やすというリノベーションが行われている。それとともに、近年の傾向として求められている、野球場のボールパーク化を狙った複合的改修事例である。既存の躯体から構造的に切り離した新設の座席部分は、構工法として特筆すべきものとなっている。
以上の四つの受賞建築は、リフォーム以前からかなり名の通った建築であったが、次の二つの1980年代に建設された建築は、著名な建築であったとは言えないが、リノベーション・コンバージョンによって、地域に愛される建築に蘇った事例である。
「真庭市立中央図書館」は、市町村合併前に庁舎として建設されものを、新しい市立の図書館にコンバージョンしたものである。綿密な既存躯体の点検を経て、耐震補強と躯体の補修が行われ、ほぼスケルトンの状態にしてから、市の特産品であるCLTなどの木材を活用して温かみのある空間を創り出している。床スラブに穴を穿ち、効果的なトップライトを配するなど、改修設計技術の高さを感じさせるリフォームである。既存の外壁タイルをそのまま残し、前面をガラスカーテンウォールで覆うなど、様々な意味で環境問題に配慮した設計となっており、高く評価できるものである。
「湯原ふれあいセンター」も同じ真庭市の公共建築である。1984年に建設された800人規模の町民ホールをもつ地域のための施設であったが、市町村合併に伴い、施設の再編が求められ、市の行政部署である「振興局」を含む複合施設にリノベーションしたものである。ホールの大きさは縮小した方が使いやすいというスタディに基づき、魅力的な空間に仕立て直すとともに、縮小によって生み出すことのできた空間を「振興局」の業務スペースや多目的スペースに割り振っている。住民とのワークショップを重ねて生み出されたこの地域施設は、新たな公共複合施設のあり方の手本になるものであろう。
「I-PEX キャンパス本館」もコンバージョンの事例であるが、元の建物の建設された時期が比較的新しく、1990年に建設された大学である。大学のキャンパスをそのまま製造会社のキャンパスと捉え、大学の本館を設計・開発部門が入居するオフィスに改修している。既存建築の空間構成はあまり変えていないが、縦動線を一新し、空間の利用の仕方は現代のオフィスに相応しいものとなっている。外観のデザインを継承し、撤去した階段の段床の痕跡を壁面に残すなど、元の建築をリスペクトしたリフォームは、BELCA賞に相応しいものといえよう。
以上のように、今回のベストリフォーム部門の表彰対象は、当初の建築がバラエティに富んだものであるとともに、リフォーム後も様々な形で優れた活用の形を見せてくれるものとなっている。リノベーション・コンバージョンが建築行為の重要な分野であることは、今後も更に進むことであろう。