第30回BELCA賞選考総評 BELCA賞選考委員会委員長 三井所 清典 |
BELCA賞は良好な建築ストックが現代社会の中で生き生きと活用され、未来に引き継がれることを目的に設けられた賞である。賞を2部門に分け、長年にわたり適切に維持保全され、今後も長期保全の計画がある模範的な建築をロングライフ部門として、社会の変化に対応したリフォームにより、見事に蘇生した建築物をベストリフォーム部門として選考し、平成3年から昨年まで表彰件数は合わせて286件を数えている。 BELCA賞への関心は年々高まりつつあるが、現代社会で活用されるためにはロングライフ部門でも耐震改修や設備の抜本的現代化が必要であり、ベストリフォーム部門では建築寿命の長期化に伴い、利用者の建物への愛着を重んじる傾向を深めている。そこで近年は両部門の件数をあらかじめ定めず、合わせて10件を選考することにしている。 今年は昨年と同じくロングライフ部門が少なく3件、ベストリフォーム部門が7件と多くなり、次のような建築が表彰された。 ロングライフ部門では、 ・高度経済成長期に建設され、耐震・耐風構造が効き、阪神・淡路大震災の被害も少なく、長期にわたる利用計画のある初期の超高層ビル ・昭和初期の竣工時の銀行の外観と昭和後期に増改築された内部空間を阪神・淡路大震災の被害の修理を経て、よく維持保全されている博物館 ・昭和初期の木造校舎を現代に求められている性能や設備レベルに適合させ、地域の人達の要望に応える維持保全がされている小学校 ベストリフォーム部門では、 ・昭和20年代末竣工の共同住宅で、居室の面積は狭く設備も老朽化していた住戸を三つの改修案で居住者の合意を得て現代的な間取りと外観を実現し、将来の変化も容易にした公的賃貸住宅 ・竣工時のフォルムを残しつつ、美術品の移動や展示方法、外断熱と外装の刷新で現代に求められる機能と性能を充足して蘇った美術館 ・戦後いち早く実現したモダンデザインの公立美術館を受け継ぎ、原設計者が創造した空間を保全・再生し、材料選定の思想も継承して、性能と機能を向上させた民間の美術館 ・大規模商業施設を適切に減築改修し、窓やバルコニーで内外のつながりを、吹き抜けによって内部のつながりを実現し、開かれたイメージの市庁舎として蘇った市庁舎 ・尾根軸のメインストリートに関わる校舎群の改修で原設計の美しさと自然との調和を現代の技術で復元し、活気のある学習環境を整備した大学キャンパス ・重要文化財指定建造物では担い難いサービス部分を隣接街区の地下に配置し、地上のアメニティーや日常的な売り場の更新を可能にした百貨店 ・一時の利用者増加に対応して改変された建築を、今の時代に適応させる丁寧な改修検討を重ね、結果として、竣工時のデザインを復元しているゴルフクラブ 今年の表彰建築物の建築年齢は80歳以上が3件、60歳以上が2件、40歳以上が4件、20歳以上が1件で、ロングライフ部門の平均年齢が74歳、ベストリフォーム部門は58歳であった。これらの建築の寿命は皆様の努力で確実に延びていくであろうし、若い建築も資源や環境問題、立地や経済性等のさまざまな理由から長寿命化が図られていることは意義深い。80歳代の3件はいずれも建築技術が高まり、それが全国に普及したいわば戦前のピークの時代の建築で、用いられた建築材料の質も高く、意匠も豊かである。それに比べ60歳代の2件は戦後のまだ貧しい時代の建築であるが、それを実現させた当時の人の意欲は熱く、新しい時代の到来を感じさせる美術館と共同住宅である。そしてこの5件はもとより高度経済成長期以降の表彰建築にも既存の建築を維持保全し、改修の手を加えるに際し、先人の行為やものに対する強い敬意の念が感じられたが、このことはBELCA賞が大切にしている精神の1つであり、喜ばしいことである。 最後に、惜しくも選にもれた建築物については、さらに充実した内容で再度の応募を期待したい。 |