第30回BELCA賞ロングライフ部門選考評

 BELCA賞選考委員会副委員長 深尾 精一

BELCA賞表彰件数10件の中で、ロングライフ部門で表彰されたものは、今回も前回に引き続き3件であった。ベストリフォーム部門の数が多くなっているのは近年の傾向であり、まさにストック活用時代と言えるであろう。もっとも、応募作品は、どちらの部門で応募されるのが適切であるのか、判断が難しいものが増えてきている。
 ロングライフ部門は、前回・前々回と、戦後に建設されたものが選ばれていたが、今年は三件のうち二件が戦前に建設されたものとなった。前回の部門評の末尾には、「BELCA賞の受賞作品もますます多様化してゆくことであろう。」と書かれているが、選ばれた建築は、まさにそのような傾向である。今回の受賞作品は具体的には、戦前に建設された銀行の支店を博物館として使い続けている建築、戦前に建設された木造の小学校をそのまま校舎として使い続けている建築、そして西日本で最初に建設された超高層オフィスビルの建築である。構造種別も、建築用途も全く異なる多様な建築が選ばれたことは、30回目というBELCA賞の選考結果としてもよかったのではないだろうか。
 受賞三件のうち、一件は1934年から1936年の建設、もう一件は1935年の建設であり、築後約85年であり、戦後の建築の一件は1969年の建設で築後50年強と、ロングライフ部門に相応しい建築である。
 1934年から1936年にかけて建設された西脇市立西脇小学校は、数少なくなってきた木造の校舎を、現在でも教室として使い続けている、貴重な建築である。一時は建替えの検討もされたようであるが、卒業生や市民の、使い続けたいという熱い思いによって改修工事がなされている。文化財としての保存・復元を行いながら、現代の学校建築に求められる様々な性能・設備レベルに適合するように改修されているが、その工事を、学校全体として使い続けながら行っていることも特筆すべきである。改修に先立って、「西脇小学校保存活用計画」を作成し、万全な維持管理を計画していることも、BELCA賞の表彰対象として相応しい点である。
 神戸市立博物館は、横浜正金銀行神戸支店として1935年に建てられた建築である。戦後は東京銀行神戸支店として使われていたが、1980年に神戸市に譲渡され、増改築・改修工事を経て、1982年に神戸市立博物館として開館している。古典主義様式の外観はそのまま保存され、内部の銀行営業室など、要所の空間については、当初のデザインを継承して改修されている。1995年の阪神・淡路大震災の際には地盤などに大きな被害を受けたが、建物については耐震補強工事が適切になされていたこともあって、使い続けることができている。2019年には内装改修工事も行われ、ロングライフを体現している。
 神戸商工貿易センタービルは、1969年に建設された、日本で二番目の超高層ビルである。ダブルチューブ構造によって耐震・耐風構造としているが、1995年の阪神・淡路大震災でも構造躯体の大きな損傷はなく、震災後にも復興の拠点の一つとして使われている。1999年には「リニューアル工事基本計画・設計書」が作成され、高度な省エネルギー改修工事が実施されている。また、2019年には「再生事業計画」が作成され、長期に渡る高層ビルの利活用計画が実施されることになっている。まさにロングライフビルと言ってよいであろう。
 以上のように、今回のロングライフ部門は、構造種別・建築規模・高さなどが多様な三件を選ぶ選考結果となった。建築物の長寿命化が進む中で、BELCA賞の受賞作品の多様化が進んでいる。

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