第30回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評 |
今回のBELCA賞は、応募期間、一次の書類審査・二次の現地審査時期ともに新型コロナ渦の中で行われるという異例の事態の中で決定された。応募件数は、前回より約3割減少したが、BELCA賞に相応しいとして、前回と同数のロングライフ部門3件、ベストリフォーム部門7件の年10件以内という限度一杯の10件が選定された。例年と同様に10件の表彰物件に達したのは、古い建物を有効に活用するという考え方が定着したことに他ならず、BELCA賞の果たしている役割は大きいといえよう。 今回ベストリフォーム部門で表彰に値するとして選定されたのは、上記のように前回と同数の7件であり、それらの竣工年:現在の用途を示すと、@1954年竣工:賃貸共同住宅、A1979年竣工:美術館、B1951年竣工:美術館・博物館、C1993年竣工:市庁舎を中心とした複合施設、D1964年竣工:教室(大学)、E1933年竣工:百貨店、F1961年竣工:クラブハウスである。戦前竣工のもの1件、竣工時と現在の用途が異なるものも1件のみであった。各物件の詳細な選考評は、物件ごとの選考評をご覧いただくとして、ベストリフォーム部門全体の概要を以下に示す。 @は、築60年以上が経過し老朽化が進んだ建物を、今後も優良な賃貸住宅として継続させるために、神奈川県住宅供給公社が主導し、「外断熱、LOW-E複層ガラス」による温熱環境の改善、「必須リノベ・部分リノベ・フルリノベ」の3タイプから選択できる「住戸リノベーション」、今後の改修工事を容易にする「排水立て管の屋外化」、外観を一新する「ルーバーを多用しての外装改修」などを、所有者・設計者・施工者・居住者のコミュニケーションと理解・協力のもと「居ながら」で実現した『アンレーベ横浜星川』である。 Aは、東京23区初の区立美術館として開館し竣工後40年を経過する建物を、オープンプロポーザルによる設計者選定を行い改修した『板橋区立美術館』である。展示品の移動用エレベーターがないという大問題を適切な位置に設置して解消、既存躯体の上に外断熱(屋根は内断熱)としその上にガラスとガリバリウム鋼板を重ねた奥行きのあるデザインによる断熱改修、スロープの設置によるバリアフリー化など適切な改修が行われているほか、2本の一方向のラインレールで軸がスライドすることにより直交レールを必要としないにもかかわらず平面的に自由な角度で設置できる可動展示壁の採用など、細かな点にも配慮した設計がなされている点が評価された。 Bは、鶴岡八幡宮の境内一部を神奈川県が借りた敷地に建てられた坂倉準三設計の日本初の公立近代美術館が、2016年の賃貸借満了時に更地返還することになったものを、鶴岡八幡宮が民意を受けて建築の保存継承を決定したために生き長らえた『鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム』である。今回の改修に際し、“1)設計者が創造した空間の保存、再生”“2)新規材料は、オリジナルの材料の選定思想の継承、機能向上した同質材料の採用”などの5つの方針が定められ、方針を忠実に守った極めて丁寧なリフォームが行われており、かつ、バリアフリー対応、増築された憩いの場としての附属棟、位置を変更したメインエントランスの設置なども適切に行われていることが高く評価された。 Cは、大型商業施設を、身の丈にあった面積まで減築するという手法を用いて市役所にコンバージョンした『テラス沼田』であり、今後50年以上にわたり新しい市庁舎として使い続けるための様々な工夫がなされている。商業施設という閉鎖空間であったものに各所にテラスと開口部を設け外部との連続性を確保し、さらに、市役所のメインフロアである3階中央に最上階まで床を撤去する減築によりアトリウムを創造し、自然の光・風を感じられるようにしたこと、耐用年数を過ぎたものも多い設備機器の適切な更新・配置替えをしたことなど、評価すべき点は多い。 Dは、2002年第12回BELCA賞ロングライフ部門を受賞している『南山大学(G30・G棟・F棟・H棟)』であり、同大学では、2017年度に「レーモンド・リノベーション・プロジェクト」を開始している。アントニン・レーモンドの特徴的なデザインである南ガラス面の横ルーバーによる日射遮蔽に加え、全熱交換器を採用する、メインストリートの美しい中央アーケードの庇やランドスケープにおいては、学生の居場所をつくる環境整備がされている、バリアフリー化としてのエレベーターを設置しているなど、着実なリフォームを続け、緑豊かな心地よいキャンパスを維持し続けていることに敬意を表したい。 Eは、高橋貞太郎の設計コンペ案を基に建てられ、村野藤吾の設計による幾度かの増築で一街区全体に拡張された『日本橋島屋S.C.本館(日本橋二丁目地区再開発B街区)』であり、2009年に「島屋東京店」として百貨店建築として初めて重要文化財に指定されている。今回の改修では、申請建物を重要文化財として保存することにより高容積を確保した隣接の新築街区に、荷捌き・駐車場・熱源を移設して、建物保存への負担を極力軽減し、さらには街区間をつなぐ上空通路(本館北東側より、新築街区と4階と8階で接続)も荷重を新築街区の方で主に負担するという手法を採用している。申請建物以外を大幅に利用したこのような改修が、ベストリフォームとして定着するのか見守っていきたい。 Fは、改修設計者が、現在の使われ方を利用者・建築主と綿密に話し合い改修に取り組み、また、原設計者・天野太郎の設計した空間構成、建築の素材の肌触りを深く理解し大切に扱い利用者・建築主に伝えて設計をしていることが評価された『嵐山カントリークラブ クラブハウス』である。クラブハウスという健常者が利用する建物であると、ある意味割り切ってリノベーションを行っている点も評価したい。 |