第29回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評 |
今回ベストリフォーム部門で表彰に値するとして選定された件数は、前回より2件増え7件である。竣工年:現在の用途を示すと@1930年竣工:レストラン・婚礼施設、A1926年竣工:集会場(結婚式場)、B1931年竣工:事務所、C1981年竣工:市庁舎、D1970年竣工:展示場、E1938年竣工:郷土歴史館・がん在宅緩和ケア支援センター・子育て関連施設等からなる複合施設、F1987年竣工:劇場・図書館・地域交流スペース・市民サービスセンター・子育て支援センター・保育所・屋上広場・交番・スーパーマーケット・駐車場等からなる複合施設である。竣工時と用途が異なる建築物が4件、戦前竣工のものが4件と過半数を占めるなど、前回は、ほぼ全建築物が竣工時から用途変更がなく、戦前竣工のものは1件であったのと大きく異なる結果となった。各物件の詳細な選考評は、この後に続く建築物ごとの選考評をご覧いただくとして、ベストリフォーム部門全体の概要を以下に示す。 @は、李王家の邸宅として建設され、その後赤坂プリンスホテル旧館として使用されてきた建物の下に新設建物の地下を設ける計画とし、地下工事に先行した仮曳家、新設建物地下構築後に本設位置に戻す二段階の曳家を行い、適切な免震装置を設置していること、内部意匠等に関し3段階の保存グレードを設定し保存と活用のバランスがとられていること、中庭に増築された厨房等を撤去し中庭を復原していることなどが評価された『赤坂プリンス クラシックハウス(東京都指定有形文化財 旧李王家東京邸)』である。 Aは、『旧名古屋銀行本店ビル』を一棟貸しで集会場(結婚式場)へと保存・改修したプロジェクトである。建築基準法第86条第4項(総合設計+連担)を名古屋市において初めて利用して、容積率の約2割り増しを実現することで高層棟の床面積を増やし、事業性を改善していること、設備棟を増設し今後の維持管理・改修を容易にしていること、屋上に増設されたチャペルも外観に影響を及ぼさないよう配慮していること、トイレの出入口などは旧金庫室の内部装飾を保存して、銀行建築だった記憶を継承していることなどが高く評価された。 Bは、「村野藤吾の初期作品を後世に遺す」との理念のもと、2度の増築工事と外壁改修を経て、1993年に第3回BELCA賞ロングライフ部門を受賞している『近三ビルヂング』である。今回の改修は、1)外観を変えない耐震補強、2)120歳までテナント誘致を可能とする快適なオフィスビル、3)環境に優しい省エネビルを実現することを目的に行われており、ほぼすべてに妥当な成果を得ているが、オーナー自らの手で維持保全管理全般を行っていること、築88年のビルでLEED-v4.0のGold認証を取得していることは特筆に値すると言えよう。 Cは、竣工後約30年を経過し、狭隘化や内外装の老朽化等の問題を抱えていた『白井市庁舎』を、種々比較検討の上、減築+増築の手法で課題解決を成功させたものである。8階建ての既存庁舎を4階建てに減築し補強無しで耐震性能を確保、既存庁舎の4階に庁舎のシンボルとなる先進的な議場を設置、減築面積に相当する規模の新庁舎を既存庁舎に隣接して増築、新たに増築する部分を仮使用することで仮設庁舎を無くすという整備方針を策定し、ECI方式の採用+によりそれを見事に成功させていることが高く評価された。 Dは、大阪万国博覧会の際、メインテーマ“人類の進歩と調和”のもと、岡本太郎デザインによりトラス構造の大屋根を突き抜けた高さ70mのモニュメントとして創られ、博覧会終了後撤去の予定であったが、反対署名により工作物として保存されてきた太陽の塔を、一般公開前提で建築物に変更した『日本万国博覧会記念公園太陽の塔』である。塔内の“生命の木”を損傷させない足場組立の工夫、各設備の設置・エントランス空間の増築・バリアフリーへの対応が充分配慮されている点など現地審査委員一同を感動させた建築物である。 Eは、内田祥三設計で、「内田ゴシック」と称される外観を有する旧公衆衛生院を、港区が保存再生し、新たに郷土歴史館等の複合施設とした『港区立郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜)』である。歴史的・意匠上重要な「保存部分」から、既往の改変により創建時の姿を留めていない「その他部分」に至るまで6段階のランクを設定した上で、空間の開放性と意匠性を損なわないような格子と強化ガラスでの耐震補強、徹底した安全性向上やバリアフリー化など、複合施設として必要な適切な改修が行われている点が高く評価された。 Fは、隣接する“うだつの町並み”に調和する外観をもち、地域の人々に愛されてきた大型民間商業施設を、市が建物と土地を取得し、市民サービス機能の拡張と地域交流スペースの充実化といった施設整備を行うとともに、スーパーマーケット1店舗は改装して営業を続けるという官民一体のプロジェクトで完成した『美馬市地域交流センター ミライズ』である。種々適切な改修が行われているが、特筆すべきものとして地下駐車場の一部を利用し、1階床を減築して501席の本格的な音楽ホールを設置していることが挙げられる。 |