今回のBELCA賞ベストリフォーム部門の応募件数は前回と同数であったが、表彰に値するとして選定された件数は1件減り、@1981年竣工の美術館 A1973年竣工の美術館 B1958年竣工の庁舎 C1989年竣工(T期)の水族館、D1933年竣工の事務所・物販店舗・飲食店舗からなるビル の5件であり、Aで倉庫等が増築されているものの、全て竣工当時から特段の用途変更などされていない建築物となった。
詳細は、この後に続く建築物ごとの選考評をご覧いただくとして、ベストリフォーム部門全体の概要を以下に示す。
@は、「古美術をより美しく見せる空間」「公開承認施設としての機能向上」「人々に愛され続ける美術館」を実現することを目的としてリフォームを行った、2003年ロングライフ部門受賞のMOA美術館である。具体的には、大広間の展示空間での展示ケース同士の映り込みの問題点を、新たに中央に設けた黒漆喰壁で解決し、展示ケースと外壁の中間に設けた中空層などによる展示ケース内温湿度環境の改善、展示ケースの常設免震化の実施、全面的なバリアフリー化などとともに、清掃を含む維持管理が極めて適切な建築物である。
Aは、谷口吉郎氏の設計により建てられた春日大社国宝殿である。耐震補強・収納スペース不足の改善・設備の全面更新やバリアフリー化を行うとともに、建物正面側と裏側にそれぞれ展示ホール・倉庫を増築しているが、シンプルなプランの増築にもかかわらず、動線が大きく、しかも適切に変更されていること、これまでの鬱蒼とした木々の奥にある閉鎖的な姿から、杜の広場に面する開放的な姿へと生まれ変わった点などが高く評価された。
Bは、宇和島から東へ約30kmの山間にある鬼北町の庁舎本館であり、当時実施例の少なかったHPシェルの屋根を設けた株式会社レーモンド建築設計事務所の設計監理による建築物である。改修内容は、耐震改修・雨仕舞等の問題の解消・バリアフリー化・OAフロア対応・最新情報通信設備と空調設備の全館設置・複層ガラスによる室内環境改善・トイレの男女別化など極めて一般的なものであるが、発注者である鬼北町トップのリーダーシップのもと「身の丈に合った庁舎」を目指し、働き方改革をも伴っていることに感銘を受けた。
Cは、玄界灘と博多湾を隔てる砂州である海の中道のなかにあって、白い幕屋根に覆われ、貝殻の様にも見えるマリンワールド海の中道である。以前訪れた際と外観は変わっていなかったが、入ってすぐのカフェテリアを大胆にも撤去した後のエントランスホールの開放的な空間、2層分の円柱水槽を撤去して設置された、いわゆる「ししおどし」の原理の応用、1分間隔で500?の水を落とし込み荒波を生じさせる玄界灘水槽、子どもの目線にも配慮した展示方法などに驚かされるとともに、省エネへの気配りなどにも感心させられた。
Dは、民間で初めて地下鉄駅と一体化して設計された現存最古の建築でもある、曾禰達蔵設計による明治屋京橋ビルである。創建以来初めてとなる今回の大規模な全面改修にあたり、関係者が中央区教育委員会学識経験者と意見交換をした上で、保存・復元・新設の範囲を的確に決定していること、道路境界まで最短430oの中、地下1階での柱頭免震を新規に開発した納まりで施工しており、目立たない西面に9層の設備ヤードを新設し、室外機とキュービクルを集約配置していることなどについて極めて高い評価を受けたが、身障者トイレがないなど、バリアフリー面で問題があるという厳しい指摘もあった。
これらの建築物が、真に“幸せな建築”として長く活用されることを祈念する次第である。
|