今回・第27回のBELCA賞の総応募件数は、部会制による選考を廃止し、ひとつの委員会にて両部門の選考を行うなどと選考規定を改定した2001年度・第11回以来の平均件数を1割ほど上回った昨年度と同数であった。表彰件数は、慎重審議の結果ロングライフ部門4件、ベストリフォーム部門6件となったが、両者の比率が応募件数の比率と完全に一致するという、過去にない結果となった。ロングライフ部門で表彰に値するとして選定された建物は、@1930年竣工のレストラン・ホール・貸し会議室等からなる公会堂、A1956年竣工の展望台・娯楽施設・店舗等からなる道路上建造物、B1927年竣工のホテル本館、C1986年竣工の美術館と、竣工年度・用途とも多岐にわたる。
表彰案件4件の詳細は、この後記載されている個別の選考評をお読みいただくとして、表彰に値すると判断された理由等の概要を示すと、以下のようになる。
@は、昭和天皇の即位を記念し佐藤功一の設計により建設された群馬県初の公会堂建築であり、数度にわたる改修が行われた「群馬会館」である。2015年には、ホール天井の耐震化とあわせた内装の全面改修が、当初の設計図がなく関連資料が乏しい中、現地調査・残存写真・佐藤の他の設計事例などを手掛かりに“創建当初の意匠を蘇らせる”という方針により行われ、適切な手法と丁寧な施工により目的を達成している。適切な維持・管理、改修が行われてきており、築100年・2030年までの詳細な維持保全計画が策定されていること、当初より開業しているレストランオーナーの建物への愛着をもった接し方などが評価された。
Aは、内藤多仲・竹中工務店設計の二代目「通天閣」であり、2015年に南海トラフ大地震に耐えうるよう、道路を跨いだ建造物という制約から下部展望台までのエレベーター棟がタワー部分と別構造になっていたことを活かし、下部展望台下での中間階免震構造としたものである。既存骨組みの形に配慮した補強や化粧によって、まちに対して圧迫感、閉鎖感を感じさせない中間免震装置、その部分を利用し、外観にも配慮しながら目視点検を容易にしている電気配線、水道・排水管の脚部露出配管、コストを抑えたと思われる内装の改修には野暮ったさも感じるものの、逆にノスタルジックな印象を与える点などが評価された。
Bは、度重なる増改築を重ね、1991年の新館増築の際に行われた中庭を公開空地として整備するとともに、本館全体の外観を竣工時にできるだけ近づける復原・改修、設備の大幅改修などにより第5回(1995年)ベストリフォーム部門を受賞した渡邊
仁設計の、“横浜の迎賓館”とも称される「ホテルニューグランド本館」である。今回の保存改修の中心は、本館2階ロビーとレインボーボールルームの左官仕上げ大規模天井の耐震対策改修であり、入念な耐震計画のもと、実大振動実験で確認した上での卓越した職人技の活用・新しいBIM利用の施工技術の活用などにより見事に改修工事を完了させた点が高く評価された。
Cは、少ない学芸員でも問題なく運営できること、メンテナンスフリーで長寿命な建物とすることを念頭に、大宇根・江平建築事務所により設計された、我が国で唯一の“版画”をテーマとした「町田市立国際版画美術館」である。ロングライフ部門の応募条件“竣工後30年”ギリギリの建物であるが、綿密に検討された工法・材料が用いられ、30年経過の汚れなどを感じさせないこと、いわゆる“ハートビル法”の制定された1994年以前竣工にもかかわらず、町田市が1974年に全国に先駆け“車いすで歩けるまちづくり”宣言を出していたためか、身障者対策が当初よりなされていたことなどに感心させられた。
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