24回BELCA賞ロングライフ部門選考評

 BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康

今回のBELCA賞の応募物件は、力作が多く、かつ、ロングライフ部門・ベストリフォーム部門とも昨年より件数が増えたが、表彰件数は10件以内という制約から、書類選考・現地審査を通過し、表彰される各建物は、極めて質の高いものとなった感がするとの発言が、第2次選考委員会で多くの委員から出された。部門ごとの表彰件数は、昨年と同様ロングライフ部門3件、ベストリフォーム部門7件である。
ロングライフ部門で表彰される3件は、耐震性・耐久性の面での不安、スペース不足から解体も検討されたが、故郷のシンボルとして愛され続けてきた建物を、増築棟の建設、引っ越し、既存棟の改修という手順を踏んで蘇らせた、今井兼次設計、1959年竣工の「大多喜町役場」、1995年の阪神淡路大震災で地下1階が水没し、基幹設備が損傷する被害はあったものの、建築的に致命的な損傷がなかったことから丁重な復旧工事が行われ、取り壊し建て替えの話も出たが、関係者の熱意により全面的な耐震補強を行い、港町神戸を象徴する建物であった渡辺節設計、1922年竣工の建物を生き返らせた「神戸商船三井ビル」、移転か継続使用かの選択に迫られた時期もあったが、長期にわたる検討を通じて、建築専門家の意見や出身の神父たちの原風景への強い思いが契機となり、内外装改修、宿舎の耐震補強、設備改修、アスベスト除去という大改修実施へ至った、自邸を日本で最初のコンクリート打放しで実現したアントニン・レーモンド設計、1966年竣工の「神言神学院」である。
3件とも耐震改修が行われており、地下を含めて3層の大多喜町役場では耐力壁の追加と既存壁の増打ち、神言神学院では、複雑な円筒シェルで構成される鐘楼を含む教会部分は補強が必要なく、回りをロの字形に囲む地下を含め最大で4層の宿泊棟等を、大多喜町役場と同様の耐力壁の追加と既存壁の増打ちを基本とし、一部にピン接合鋼管ブレース設置で対処している。これに対し、地下を含め8層の神戸商船三井ビルでは、凹型の建築プランのへこみ部分に大規模な外付け耐震フレームを設置している。いずれの物件でも、十分なプラン・意匠面での配慮の上耐震補強を行っており、特に、神戸商船三井ビルの耐震フレームが外観を一切損なうことなく設置されていることが評価された。
3件とも、竣工時の外観に近づけることに努力するばかりでなく、内部の装飾等を含め、古いものを大切に扱っている点が高く評価された。大多喜町役場の今井兼次によるモザイクタイル装飾の再生保存・スチールサッシュの再利用、神戸商船ビルでの共用部を中心とした天井・壁、さらには床のモザイクタイルに至るまでの保存、3基のうち1基だけ竣工当時のエレベーターを残し、また、メールシュートも残している点、神言神学院のレーモンド夫人によるといわれる色使いの再生など、50年ほど前に建築を学んだ私にとって、新たな魅力を感じさせられたものが数多く、学ぶべき点が多かったことに感謝したい。

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