23回BELCA賞ロングライフ部門選考評

 BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

23回BELCA賞ロングライフ部門はキングホームズ代官山、神戸松蔭女子学院大学 六甲キャンパス及び明治神宮 外拝殿の3件の建築にかかわる所有者、原設計者、改修設計者、建築施工者及び維持管理者等に贈られることになった。

3件は高層賃貸共同住宅、学校施設、神社建築とその用途はそれぞれ違うが、共通して言える最も重要なことは、建物をできる限り元のままに保存して大切に使い続けたいという所有者の意思である。それは原建築とそれをつくった人々への敬意の気持ちの表れであり、またその気持ちが維持管理者、改修設計者及び改修施工者に共有されて改修保全事業が全うされていることである。昨今建物が次々に売却されたり、ファンド化されて所有者が誰であるかわからなくなっているケースと比べるとはっきりすることであるが、所有している建物に誇りを持ち、多くの人々に快適に使われることに歓びを感じる気持ちである。例えば共同住宅では控えめの高級感であり、広さや天井高の高さや外部の庭で、居住者の住みやすさや来客への心地良さの提供である。大学では学生生活全体を包み込む学習環境そのものであり、一般に公開されている様々な催物を開催するソフトと施設である。神社では荘厳な姿の境界の雰囲気を継承することであり、年間を通じ、頻繁に行われる祭事や毎日参詣に訪れる大勢の人をもてなす気持ちである。私はその気持ちをオーナーシップと言いたい。

大改修の保全事業の動機はいずれも耐震補強であり、地震に対する安全性を向上させ、大地震に対しても人命を保全しようとすることが第一義的な理由である。ただ3件に共通することはそのことで元の姿を損傷させないために様々な工夫を凝らしていることである。キングホームズ代官山は屋上設置物の撤去による軽量化、躯体への炭素繊維巻や増打、神戸松蔭女子学院大学 六甲キャンパスは耐震補強が必要な2棟に窓の形を活かした補強で内外間の保全に努め、明治神宮 外拝殿では国宝や重要文化財の木造の社寺建築の補強にもよく用いられている鋼材の梁や桁や火打等は一切用いず、古代長押や木ダボ組み板壁など木材による補強をすると同時に強度の計算に限界耐力計算や時刻歴応答解析といった現代の先進的構造技術で安全性を確認して、見掛けの損傷を無くしている。

耐震補強を契機に建物全体の価値を向上させることは改修設計者に共通する。例えば省エネルギー対策であり、外観を保全するために外装タイルを全数チェックし、ピンニングなどの必要な補強を施し、欠損タイルは特別に色合わせしたb器質のレンガタイルや磁器質のタイルを注文して焼き揃えたり、付加した新しい木部には色合わせの古色を施すなどである。

今回受賞の3件に極めて印象的な共通点は、外部の緑、樹木を大切に保全していることである。明治以来のお屋敷の庭園を維持し、周囲と連担する崖線の緑を都市環境として保全し、岩盤ばかりの土地に植えた樹々を大切に育て、校舎間のスペースを緑が豊かと感じさせるキャンパスを創造し維持していること、殺伐とした練兵場に全国から寄付された樹木を青年団のボランティアで植えた人工の森を自然の森のように姿を変えた豊かな都市の杜に囲まれていることである。

受賞の3件は、いずれも優れた総合的な生活環境をそれぞれに維持していると評価できるものである。

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