第22回BELCA賞ベストリフォーム部門はさまざまな用途の施設建物の応募があり、受賞した施設も銀行・オフィスビル、温泉ホテル、ホテル・共同住宅・店舗等の複合ビル、野球場、中心市街地型大型小売店舗、美術館と全て異なっている。そのうち用途や施設目的を変えないで性能と機能の向上を計ったもの2件、用途は変わらないが地域化するソフトを入れて施設変更したもの3件、用途の一部は残しながら他用途に変更し性能や機能を大幅に変えたものが1件で、取り組まれているリフォームの実態はさまざまである。その中でも目立った現象として地域化がある。日帰り温泉化、野球場と一体化・防災拠点化、地域コミュニティのためのたくさんの催物スペースをもった市街地型大型店舗の出現など積極的な地域指向はリフォーム目的の一つの社会現象と思われる。また今回総合設計制度の適用の取り下げ手続きによるリフォーム事例はBELCA賞で初めてのことである。なお将来の維持保全を良くするために、リフォーム前後の設計図書や写真等を整備保存しておくことの重要性が選考委員会で課題として取り上げられた。
「かんざんじ温泉華咲の湯・ホテルウェルシーズン浜名湖」(1972年竣工、2009年改修)は団体旅行向けの大型ホテルとして開業した施設を周辺住民や日帰り客にも利用しやすいものに変えるためリフォームした施設である。団体客向けの客室があった4階から13階を解体する減築は画期的で、大会議場も解体して庭や低層の家族向け客室に建て替え佇まいを一新すると共に喫茶ラウンジやナイトホールもその形状を活かした浴室に改修して活気を取り戻している。構造的にも高層部を減築した低層部は耐震安全性の高い建物に生まれ変わっている。設備面でも減築に伴う蒸気ボイラーの余力を利用した蒸気熱搬送システムなど既存設備の効率的な活用がなされ、維持保全の計画と実施体制も確立されている優れたリフォームである。
「郡山総合運動場開成山野球場」(1952年竣工、2010年改修)はリフォームにより公園と一体化となり、市民に開かれた魅力的な施設として生まれ変わった野球場である。特徴は大屋根機能をもつネット裏のスタンドが象徴的で、スタンドの下はグランドをのぞむコンコースになっていて気持ちの良い空間を創造している。また芝生席のバックスタンドを公園と一体化したことも要請を見事に満足した改修である。東日本大震災ではこの野球場が郡山市の防災本部として使用されたが、災害に備えた改修であったことが計らずも実証されたことになった。例えばナイター照明を非常用電源に切り替えて利用可能としていたこと、スコアボードはLED方式で大型映像装置が広報機能活用出来ること、衛生設備でも受水槽を設置して災害に備える工夫などが有効に活かされた。
「HUNDRED CIRCUS East Tower」(1992年竣工、2008年改修)は建設後15年経ったシティホテルを共同住宅やホテル、事務所や店舗等を含む複合ビルにリフォームした建物である。このリフォームの特徴は総合設計制度によって計画された既存施設を敷地の一部売却と一部購入による敷地条件の変化により総合設計適用取り下げという手法を採っていることである。また共同住宅化によってそのエントランスホールや共用廊下・階段及び室内をバルコニー化することで容積緩和を受けるなど計画手法に際立ったリフォームである。設備面では中央熱源方式から個別方式に変更する等によって契約電力を6割に削減し省エネルギー化に成功している。建替えでなくストック活用のためにさまざまな工夫と技術が駆使された優れたリフォームと評価される。
「百十四ビル」(1966年竣工、2011年改修)はその佇まいの良さから地域の人々に親しまれ、高松の風景の一部になっている建物である。リニューアルはその外装の維持保全とその他室内共用部や設備を現代の要請に合わせる更新が主要な目的であった。銅素材の外装のカーテンウォールに対しては透明性の高いガラスで覆うことで対応しているが、その取り付けのための調査やディテールにも配慮が行き届いている。共用部トイレの円筒型の引戸や木質化等に見られる快適化、空調負荷の低減や省エネ設備への改修で省エネルギー化にも成功している。殊にリフォームの課程で所有者、維持管理者、設計者、施工者、入居者の協力体制の良さはこの事業を成就させた要因として称賛される。
「マルヤガーデンズ」(1961年竣工、2010年改修)は1960年代に地元のデパートとして開店し、一時営業していた東京のデパートの撤退に伴い再び地元の商業テナントビルとして一新されたビルである。立地する中心市街地の賑わいの再生のために、周辺にも貢献できる活性化対策として、地域コミュニティの交流の場である「ガーデン」というスペースを各階に設け、買い物目的でない市民も集えるさまざまなイベントが行われている。館内の小売店舗だけでなく、周辺にも歓迎されているリニューアルである。売場は既存の天井を撤去して天井高を高くするなど開放的な雰囲気の演出に成功している。環境対策や省エネルギーへの取り組みも外壁緑化や高効率機器の採用等により総エネルギー使用量を改修前の6割強の削減に成功し、ハードソフトにわたる改修として高く評価できる。
「大和文華館」(1960年竣工、2010年改修)は自然との調和を重視した美術館として吉田五十八設計で竣工した建物であり、今回のリフォームが元設計の良さを損ねないものと評価が高い。具体的には耐震、空調、バリアフリー化、ランドスケープ等の改修が行われているが、文化財に対する空調や外交の遮断に神経を行き届かせ、アプローチから建物内部の展示室に至るまで丁寧なバリアフリー化を実現している。また屋外駐車場や緑地帯の整備も良く、建物と外構とが一体になって大和文華を来館者に体感させる空間となっている。省エネルギーの面でセントラル空調を個別空調方式に転換するなどにより年間一次エネルギー消費原単位826MJ/u・年を実現し、美術館としても非常に少ない数値を達成している。
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