第20回BELCA賞ベストリフォーム部門は今回も応募が多く、改修された建築施設の用途や技術がいよいよ多岐に亘り改修の経験が深まってきた。特に受賞した6点は、それぞれに特徴的個性的色彩の強い改修であった。特徴は貸事務所ビルであるが長期利用のテナントの要望に応えた改修があり、貸商業ビルであるが短期の流行でない佇まいの改修である。またコンクリート打放しのモダニズム建築の表情や瓦葺大屋根の伝統的寺院の構えを保全する改修もそれぞれに創造的技術が用いられている。更に都心のオフィスビルの緑化に努めヒートアイランド化抑制に挑む改修と地方工場の産業的建築の一部再生と大きな森化への総合的な環境改修などである。建築や外構を含む改修が新築に劣らず創造的で総合的行為であることが明らかになってきた。
「商船三井ビル(虎ノ門ダイビル)」(1979年竣工、2009年改修)はこれからの30年商船三井グループのヘッドクォーターとして使い続けられるような設備、機能、デザイン、内装、外装等が今日の先進的な新築ビルに比肩することを狙って利用者と所有者が協力して改修したものである。従って改修前からの利用者は改修計画に際し、自社の本社ビルのような与件を設計に反映させることができ、設計者も丁寧な応答が可能となった。結果として役員室廻りはもとより、エントランスホールのデザイン、その他例えば社内食堂廻りの肌理細かな空間計画、さらに一般の執務室まで、いかにも商船三井の本社ビルらしい個性的なオフィスビルとなっており、優れた改修である。
「住友商事竹橋ビル」(1970年竣工、2009年改修)は築後40年になるが、これまでにも20年目の設備更新、30年目の内装を含む大規模改修を実施し、今回の40年目は建物の環境負荷低減、安全性の向上、外構の緑化推進等環境改善に重きを置いた改修で、この継続的な関係者の取り組みが評価される。環境・省エネ対策として熱源設備の一層の高効率機器への更新や、照明器具のLED化等を含むこの度の改修の最も大きな特徴は外構の緑化で、緑被率でいえば、これまでの8.5%が41.3%に拡大されている。皇居に近接するこの敷地の緑化は皇居の緑と連携し、都心部のヒートアイランド化の抑制に寄与することが意図とされている。なおこの豊かな緑には110種もの植物を含み、四季を通して人々の心を癒す効果は大きい。
「ティファニー銀座ビル」(1987年竣工、2008年改修)はアジア全域のフラッグシップ店としての価値を表出し、銀座をより活気づけることをテーマに外装、内装を一新させた改修である。外装は2種のアルミハニカムを挟んだ複層ガラスパネル292枚を宝石のきらめきを表す意図でランダムな角度を付けた工夫など創造的である。内装もティファニーの顧客を迎えるに相応しい恒久性のある接客空間づくりを意図し、同一の建築家によってデザインされている。新たに設けられたエントランスの吹き抜けを囲む光壁はクリスタルストーンを透過するやわらかく美しい光が来客を包み込み、奥に続く床材やドレープカーテンのような木製の壁と共に全体が落ち着いて気品に満ちた雰囲気を醸し出している。
「名古屋大学豊田講堂」(1960年竣工、2008年改修)はコンクリート打放しのモダニズム建築として、すでに歴史的、文化的価値の高い建築となっているが、コンクリートの表面部分を打ち替えるという創造的技術で保存改修した建物である。幸い耐震補強を必要としない診断結果からキャンパスのシンボルとなっている外観は元の姿で保全し、中心となるホールの座席や照明、音響、空調等の性能を高めるなど内部の快適性の向上に努めている。また後方に別棟として建てられていたシンポジオンとアトリウムを設けて一体化したことも併せ、講堂の利用が格段に増えている。建物を使い続けるという大学の明確な意思とそれに応えた技術側の努力が建築の活性化、長寿命化を実現した優れた範例である。
「西新井大師総持寺本堂」(1971年竣工、2008年改修)は戦後不燃建築を推進する中で主流となったRC造の本堂であり、入母屋錣葺きの壮麗な大屋根の伝統的な外観の建物である。そういう本堂の外観と内観を保存し、大勢の参詣・参拝者の安全を守る耐震性向上のための改修を高床風につくられた1階の柱頭部に免震層を設けるレトロフィット工法を用いて、目的を果たしている。またこの工法によって従来1階に設けられていた不要となった耐震壁を除去し、新しい動線を確保するなど、1階の使い勝手も大幅に向上している。地震時の震幅によって影響を受ける正面階段や裏面の渡り廊下などとの接合部の納まりも洗練されているなど、細やかな設計や施工の努力がうかがえ、優れた改修と評価される。
「YKK丸屋根展示館」(1958年竣工、2008年改修)はYKKの拠点黒部に残る最も古い工場建築の取り壊しに際し、12,000uのうち2棟3000uを残して再生された展示館である。構造はRCシェル構造のヴォールト屋根が特徴で、この保存再生には近現代のわが国の産業施設の記念碑的保存としての意味も感じさせるものである。保存に際し、一部除去による軽量化と補強する技術を併用しているが、構造補強を含め、負荷する技術を従前のつくり方と明確に区別する意図が全体に行き亘ったデザインはさわやかである。この企業の技術的発展を展望する展示館は、工場の公開ゾーンにあり、周りを森化する計画が進行中で、まだ日本では珍しい環境配慮型工場の森の中の展示館へと変化していくのも楽しみである。
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