第17回BELCA賞選考総評

BELCA賞選考委員会委員長  内田祥哉

 BELCA賞は、良好な建築ストック、つまり社会の中で生き生きと活用される建築の形成に寄与することを目的に設けられた賞である。周到な長期計画で安定した維持保全を継続しているものをロングイフ、巧みな改修によって過去の社会で活躍した建物を現代社会に蘇生させたものをベストリフォームとし、二部門に分けて表彰し、平成3年から前回まで16回、合わせて156件の表彰件数に達している。

ロングライフ部門では、所有者、設計者、施工者、維持管理者の四者を、ベストリフォーム部門では、所有者、改修の設計者、施工者の 三者を表彰しているが、地球環境問題にともなう建築物の長期利用の 気運を背景に、BELCA賞への関心は年々高まりつつある。今回は、ロングライフ部門4件、ベストリフォーム部門6件、合わせて10件を表彰することになった。

 今回表彰されるロングライフ部門には、30年という最低要件を遙かに超えたものばかりで、中には当時の設備機械を、そのまま働かせている珍しい例もあったが、殆どは、最近の技術による設備の更新と、 耐震補強を完了している。今回特に印象的であったのは、二つの物件から、新築当時のトレンチが発見されたことで、これが設備更新に大きな役割を果たしており、長期展望を持った建物の寿命の長さに改めて啓発された。

ベストリフォーム部門では、例年の例のように用途の転用を見事に成し遂げたものがあり、オフィスビルを住宅に変身させた例では、居住条件を、マニアックな個人、SOHOに特定している点が注目された。しかし本年は、殆どの物件が、用途の変更が目立たないものが多 く、耐震補強と設備の更新を巧みに咬み合わせて、現代化への脱皮を成功させた例が多かった。例えば、中庭への増築で耐震と設備を更新 した。耐震補強のために追加した外部まわりの架構のなかに、水まわりの施設を移して、内部の天井・床配管を一掃した、などの例である。 そのほか、特に審査員の注目を引いたのは、公園機能をとり入れたりして更新を考えた野球場であった。

 以上、本年の入選物件は、いずれの受賞物件も耐震補強と設備の更新に注目すべき点があり。そこに様々な工夫と知恵のある物件が発掘された。おそらく今後の受賞作は、此の方向の技術がますます磨かれたものとなろう。

本年は、これまで受賞のなかった、宮城、栃木の両県からの入選があったが、未だ受賞物件のない県が16県あり、建物の維持保全技術の全国的向上を目指す上でも、これらの地域からの応募を切に期待したい。

今回表彰される物件が、我が国の優良な建築ストックの形成に寄与することを確信するとともに、建築物の維持保全に日夜努めておられる関係者に対して深い敬意を表したい。